WEB連載

第3回「ハイランダーとゲール語とスコットランド語と英語と私」

 こんにちは、コマです。どうしてなの。

 日々いろいろなことが起こりますが、みなさん、前向きに。前向きに生きていきましょうね……。そうそう、唐突ですけど墨汁は何度洗おうが擦ろうが浸そうが漂白しようが何やっても取れないんですから見つけたら廃棄決定ですよね! 習字の授業の日用にするのもアリですけどそのあと結局廃棄ですからジタバタするだけ無駄ですよね! なんでなんで今日に限って臨時授業が習字だって一言! 朝! お母さんに言ってくれないのよ! そしたら買ったばっかの新しいやつ下ろさなかったのに! とか! そういうみみっちい話は横に置いておいて! そう! 人生前向きに! 前向きに! まっえ、む、ギ、ギ、ギギギギギギギギギーーーーーーーーーィィィ!!


 さて、話を本題に戻しましょう……。
 前回、集英社クリエイティブの編集部から返ってきた原稿には、こんな書き込みがされていました。

 「この説は間違っている可能性もあるようですが、OK?」
 「『THE SCOTSMAN』で紹介されているStuart Harris氏の説によると、エドウィン王がエジンバラに足を踏み入れた証拠は残っていないとのことです」

 この【The Scotsman】って、スコットランドの現地の新聞なんですよ……当然ぜんぶ英文ですよ……。

 いかん、うろ覚えの、しかも付け焼刃の知識では集英社クリエイティブの校正さんには太刀打ちできない……。

 とにもかくにも該当記事を読まなきゃ始まらないわけで。
 添付してあった記事『エジンバラはどうしてエジンバラと呼ばれているのか』曰く、エジンバラは英語では「Edinburgh」なんだけれども、スコットランド・ゲール語では「Dun Eideann」と表記するのだそう。もともとこの場所にあったゴドディンという国の都が「ディン・エイディン」と呼ばれていたことに由来する、という説が最近では有力で、後にここを攻め落とした国が自国の王様の名前にこじつけて「エドウィン王の城」ということにしたのではないか……うわぁ、本当にそう書いてあるわ……っていうか、自分が英字新聞をまがりなりにも解読できたことに感動だわ……人間やればできるのねえ……。


 エジンバラの由来は大体分かりました……しかし、新たなる疑問が。

 『ゲール語』

 そう、これ、ハイランダー小説を読んでいるとよく出てくるので前から気になってはいたんです。なんだろう、この謎の言語。お話の中でよくあるのが、感極まった時にポロッとヒーローの口から飛び出すパターン。

 うーん、いいですね……。
 何て言うんですか、この「気持ちを抑えきれず」「つい」「本音が溢れ出してしまった」感が実によいです。ヒロインがイングランド出身だった場合、彼が耳元でささやいたゲール語が分からず、後日それが熱烈な愛の言葉だと知って時間差で顔を赤らめる、なんて場面は特に趣深いです。ハイランダー小説の醍醐味と言ってよいでしょう。好き。
 ただこのゲール語ってのが、英語圏でどんな扱いなのかが小説読んでてもいまいち分からない。英語のなかのキツめの方言なのか。それとも全く別の言語なのか。そう言えばアメリカのドラマ『アウトランダー』字幕版でも、最初のほうで現地のスコットランドの人がゲール語で話しているセリフには意図したように字幕がついてなかったなあ。「クレアには彼らの言っていることが分からない」という演出ですよね、あれ。

 というわけで、今回は英語の歴史が分かる本を近くの図書館から借りてきて調べてみることにしました。

 なんかむちゃくちゃいろいろ書いてあったけど、なんか、こんなん。

 とりあえずですね。この図で私が唯一読み取れる情報は、スコットランド・ゲール語と英語が「思ってたより全然早く分岐してる」ってことですよ。それのみですよ。だってこの図を見る限り、大本の部分は同じでも「母方の曾祖父さんの下の弟の息子のさらにその末の息子の高松のおじさん」くらいの他人感じゃないですか。冠婚葬祭でも滅多に見ないくらいのレアな親族ですよこれ。ほぼ他人。
 いやでもこんだけ離れてたら、そらクレアも何言ってるか分かんないわ。イングランドとスコットランドなんて地続きの隣国で、そんなにパッキリ使う言葉って変わるもん? あと古英語の分岐で「スコットランド語」なんてものがあるのも謎。待ってよ、何よ、スコットランド語? それがあるならゲール語要らなくない? 英語の横に突然しれっと座ってるけどあなたどっから出て来たの? 高松のおじさん知ってる? 知らない?


 ということで、調べてみた結果をご報告します。
 ――まずですね。「月曜日」という単語は、英語だとこれです。

 うん、知ってる。マンデー。で、これが同じ「ゲルマン語派」のドイツ語では

 うん、字面が似てます。初めの3文字が一緒。発音は「モォンタック」です。なんだろ、ドイツって感じ。で、同じ派のオランダ語では

 途中でアアァンって唸ってるけどまだ親戚。年の離れた従兄弟ってかんじ。発音は「マァァンダッフ」かなあ。発音は遠くなった。一方、そのころスウェーデン語では

 なんで置いたその丸いやつ。要るのかそれ。でもまだ分かる。発音は「モァンダー」になってて「マンデー」に近くて確かにゲルマン語派の血を感じます。さて、ここで満を持してお目当ての国・スコットランドのスコットランド・ゲール語の「月曜日」を見てみましょう。

 えっどうした、何があった。

 ――いやこれ、全っ然違いますね……!
 別言語だから当たり前なのでしょうが、こんだけ違ったらそりゃお互い何を言ってるのか分かんないですわ。ちんぷんかんぷんですわ。ちなみに発音は「ジッルゥイン」みたいな感じでマンデー要素全くなしです。完全に違う言語なのが単語ひとつでよく分かりました。
 あ、あと語順も全然違って、英語がSVO文法で「主語+動詞+目的語」の順番なのに対し、スコットランド・ゲール語はVSO型で動詞が先。もうこれ、イングランドから嫁さん娶ったハイランダーはもれなくバイリンガルと言っていいのかもしれない。日常会話のレベルで全然違うんだもん。隣同士だけど本当に異国。それに対し、古英語から分岐した「スコットランド語」というのは、「北部イングランドもしくはスコットランドの英語の方言」なんだそうで、訛った英語、というイメージなんだそう。ちなみにハイランダー小説によく出る「ラス(娘)」や「アイ(はい)」はこちらの言葉だから、普段はこっちで会話するって感じかなあ。でも、どうしてこんなに言語が違うんだろう……。

第4回に続く。

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